『泣かない女はいない』長嶋有

泣かない女はいない (河出文庫)

泣かない女はいない (河出文庫)

はじめて読んだ長嶋有
男性作家がわりと苦手なのは、登場人物に女は出てきたとき
共感できなかったり、内面の描き方がしっくりこなかったり、
興味がわかなったりしたときだ。
この作品は、興味がわかなかったというパターンだな。
でも、ひとつだけ発見があった。
長嶋有が、聖飢魔?好きだってことだ。
2編目の道具立てに使われていたのだ。
ちょっと前の週刊文春の、長嶋有ブルボン小林名義で
やってるマンガ評で『デトロイト・メタル・シティ』を
取り上げていた。そこで、デーモンにひとことあって
しかるべき云々というようなことが書いてあったのだ。
聖飢魔?……。同世代だからなんとなくわかるけど。

『偽善エコロジー』武田邦彦

偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する (幻冬舎新書)

偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する (幻冬舎新書)

「レジ袋や割り箸は環境を破壊しない」、
これは前から思っていたことなので、あらためて納得。
生ゴミを堆肥にするのは危ない」というのは
条件を限定しすぎてて、論調がちょっと偏っているかなと
思ったけど、8割くらいは目から鱗だった。
ほんと、エコビジネスにはうんざりなのです。
でも、CO2を削減することは現実的には
意味はなくても、人々の気持ちをエコに
向けるということは大切だし、そういう意味では
世の中はやっとそういうムードになったのだと思う。

『陰日向に咲く』劇団ひとり

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)

しょっぱなは、らぬき言葉にずっこけた(これは校正さんが
拾っているはず…。わざと残したとしか思えない)。
あまりに文章がヘタで読めないかと思いきや、
ヘタなんだけど、それぞれの短編が微妙に
絡み合っているあたりは、うまかった。
ストーリーも、予想外に面白く、
挫折するかと思いきや完走しちゃった。
いい意味で裏切られたので、★みっつ半くらいかな。

『太陽の塔』森見登美彦

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

ひさびさに男性作家の作品で面白いと思った!
頭が良いけどさえなくて、自尊心だけは強い、
どうしようもない男子学生の妄想なんだけど、読める。
ただの気持ち悪いやつに終わらせないで、
作者がこいつに対して愛をもって描いているから、
読んでて嫌な気持ちにならないような気がする。
(森見さんはわたしよりちょっと下の世代のはずだけど、
学生ライフに、なんとなく共有した空気がただよっているのも
おもしろく読めた理由かも……そういやゼミの後輩に
水尾さんみたいなコ、いた。)
遠藤とのゴキブリ対決なんて、痛快じゃないですか。
嫌なやつだった遠藤ですら、最後はにくめないやつになって
やっぱり愛をもって描かれる。ほかの作品も読んでみたい!

『アカペラ』山本文緒

アカペラ

アカペラ

文緒さんが小説に帰ってきた!
ずっと読んできたから、とてもうれしい。
よくぞこの1冊を出してくれたなぁ。
でも、まだエンジンがかかりきってないという印象。
可もなく不可もなくといった3編だったと思う。
1話めの表題作の主人公の「なんです」という
独白文体はちょっとうっとうしい演出。
そして近親相姦的な要素も、若干拒否反応。
3話めの「ネロリ」はよかった。
1話から3話にかけて、すこしずつ調子が上がっていってる
気がするので、次作をたのしみにしたいな。

■[★★★★][あ]食堂かたつむり』小川糸

食堂かたつむり

食堂かたつむり

小説としてぜんぜん優れていないと思うけど、
私はこの作品は、好きだ。
もうタイトルからしてそうなんだけど、
ある種の乙女をひきつけるこの甘ったるさ、
きっと好き嫌い分かれるんだろうなぁ。
いや、わたしは好きだなあと思うんだけれど。
この小説の読みどころは、とにかく料理がうまそう。
ほんと、そこがずばぬけているので、★4つ。
ちょっとだけネタバレ。
物語は正直言って、あの手この手でちょっとそれはどうなのよという
展開だったりする。禁じ手も、あんまりホメられない感じ。
(瀬尾 ま いこ『幸 福 な 食卓』も同じような展開だったなぁ。
読んだ人にしかわからないけれど…)

だけど、そんなのどうでもよくなるくらい、ディテールがよいのです。
紅茶を入れて、じっくり味わいながら読みたい本でした。

『時が滲む朝』楊逸

文藝春秋 2008年 09月号 [雑誌]

文藝春秋 2008年 09月号 [雑誌]

日本人の書き手だったら、きっと「このことは読み手は知らないだろうから、
説明が必要かもしれない」と、つねに考えながら、事象をやさしく
解き明かして、書き進めていくのだろう。
楊逸さんは中国人だから、それをしない。いやゼロではないんだけれども、
出てくる食べ物がどんなかたちをして、どんな味なのかわからない。
中国人が知っていてあたりまえのバックグラウンドを持たないから、
すーっと頭に入ってこない。主役の男子2人のキャラが、
なかなか区別できない。そんなこんなで、けっこう苦労しながら読み進めた。
労作ではあると思う。
作者の熱意は伝わってくるから、わからないけれど
それでも先へ先へと読み進めていけたのかも。
でも、日本人が読むのに、芥川賞受賞はちょっとどうなんだろう。
選評のみどころは、石原慎太郎だな。
毎回けなしてばっかりの彼が、珍しくポジティブに書いてて、
ちょっと驚いた。イチオシは言わずもがな、楊さんではないけれど。
でも、『ワンちゃん』も読んでみるつもり。作風がぜんぜん違うらしいし。