『時が滲む朝』楊逸

文藝春秋 2008年 09月号 [雑誌]

文藝春秋 2008年 09月号 [雑誌]

日本人の書き手だったら、きっと「このことは読み手は知らないだろうから、
説明が必要かもしれない」と、つねに考えながら、事象をやさしく
解き明かして、書き進めていくのだろう。
楊逸さんは中国人だから、それをしない。いやゼロではないんだけれども、
出てくる食べ物がどんなかたちをして、どんな味なのかわからない。
中国人が知っていてあたりまえのバックグラウンドを持たないから、
すーっと頭に入ってこない。主役の男子2人のキャラが、
なかなか区別できない。そんなこんなで、けっこう苦労しながら読み進めた。
労作ではあると思う。
作者の熱意は伝わってくるから、わからないけれど
それでも先へ先へと読み進めていけたのかも。
でも、日本人が読むのに、芥川賞受賞はちょっとどうなんだろう。
選評のみどころは、石原慎太郎だな。
毎回けなしてばっかりの彼が、珍しくポジティブに書いてて、
ちょっと驚いた。イチオシは言わずもがな、楊さんではないけれど。
でも、『ワンちゃん』も読んでみるつもり。作風がぜんぜん違うらしいし。