『優しい音楽』瀬尾まいこ

優しい音楽 (双葉文庫 せ 8-1)

優しい音楽 (双葉文庫 せ 8-1)

瀬尾さんの作風、安定してますね。読みやすい。
表題作は、登場人物の単純すぎる思考は気になったものの、好感が持てる話。
家族のあたたかさに、いい感じに包み込まれる。
でもそれよりもよかったのは、2話めの「タイムラグ」。
またしても、不倫相手に自分の娘を預けるという単純思考に
「そりゃないだろ」と思ったけど、それをのぞけば、物語は気持ちよかった。
不倫を描いても、じっとりしていない。
男のカードを使って豪遊させようと思ってもさせられない、
それが瀬尾さんだなぁと思った。くらべるのもナンだけど、
桐野夏生だったら、男が大変凄惨な目に遭うに違いない。

『流星の絆』東野圭吾

流星の絆

流星の絆

ラストはそりゃないよと思うのはいつものことながら、
それ以外の部分で面白く読めました。登場人物たちのジレンマがいい。
葛藤する心情が、読み手にすごく伝わってくるのね。
せっかく兄弟と妹の血がつながってないのに、
その間に恋愛感情的なものがあっても、もっとふくらんだ気がしますが。
でも、それをやっちゃうと、複雑になりすぎるのかな。

『ニート』絲山秋子

ニート (角川文庫)

ニート (角川文庫)

ニートがテーマである限り、どんな話を書かれても
わたしは楽しめないだろうと思った。だって絲山さんの話づくりは
面白いのに、これ、キライなんだもの。
ニートを庇護してやる気持ちが、まったくわからない。
だから無理。ましてセックスなんて。
ルームシェアしてた子が出て行ったのは爽快。そうだよ、あなたに共感する。

『RURIKO』林真理子

RURIKO

RURIKO

父のエピソードから始まる、冒頭がとてもよかった。
満州生まれ」とは、どういう生まれなのだろうと思っていた。
知識にイメージが追いついていなかった。ルリ子も満州生まれだという。
昭和の芸能界の様子も、なかなか面白かった。
ただ、男女の描き方はもう少し重たいものが読みたかった。
気になったのは、石坂浩二がこれをどう読むのかってことかしら。
なんかゴシップ好きみたいだけれども。

『箸の上げ下ろし』酒井順子

箸の上げ下ろし (新潮文庫)

箸の上げ下ろし (新潮文庫)

うまいこというなあ、といつも感心してしまう酒井さんのエッセイなのに、
なんだかコレはフツーすぎて、最後は飽き気味に。
初出が「きょうの料理」だったから、媒体のせい?

『吉原手引草』松井今朝子

吉原手引草

吉原手引草

夏休み中の読書。
直木賞受賞作なのに、なんでこんなに
ずっとアマゾン品切れてるんでしょ!
しびれをきらして、古書店で買っちゃいました。
*
吉原のことって、ぼんやりとしか知らなかったのですが、
これを読んで、ほうほうとわかったような気になってしまいました。
まさに「手引草」。
吉原のしきたりが具体的に説明されるので、
まったく知らない読み手でも、すーっと入っていける。
吉原のあれやこれやを知るだけでも、じゅうぶん面白いです。
松井今朝子さんの作品を初めてだったのですが、
文章の巧い人という印象。読み手の目線で書ける人。
*
主人公は花魁の頂点を極め、忽然と姿を消した「葛城」。
その姿は周囲の人々に語られることで、次第にくっくりと
輪郭を帯びてくるという手法をとっています。
要所要所で、彼女の「ありんす」口調の名言が引用されるのですが、
唯一、そこが生身の花魁を感じるところ。絶妙に効いています。
*
以下ネタバレ。
誰もが葛城のことは絶賛していて、平様もそうだったのが、
後半になって、周囲をとりまく人物像がちょっと変わってくるのが面白い。
平様の魅力が褪せてくる感じとか、
実はそんなにデキた男ではないという生々しさは、
物語の展開としてはがっかりしつつも、魅力がある。
欲を言えば、もっともっと葛城に近づいてみたかったかも。
けっこうベールに包まれて、読者の想像力にゆだねた部分が多かったので。
*
次は『さくらん』、いかなくちゃ。
漫画もDVDも。

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ひさしぶりの読書日記。
いそがしすぎて、仕事の資料以外、読めない日々が続いてますが、
この人のはどうしても読みたい。ついつい追いかけてしまう作家さん。
*
東京島』。前評判を聞くだけで、
数年前にやっていた『サバイバー』を思い出した人は多いはず。
限られた物資、条件の中で、どろどろにもつれあっていく人間関係。
でも、あれはテレビだったから、帰れる場所があったわけで、
だから安心して視聴者も見られたし、まあゲームみたいなものだった。
でも、『東京島』の無人島漂流のリアルさといったら。
忙しいというのに、ついつい目が離せなくて、合間合間に読んで
3日で読み終わったほど。
*
桐野夏生性悪説っぷりには、いつも目を覆いたくなるけれど、
ほんとうに巧いので、その技を見たくて読んでしまう。
この話も、読後感は最悪なんだけど、でも、
すごいなあと思ってしまう。
体に悪いと知りつつも、タバコはやめられません、みたいな感じかな。
なんなんだろうなー。
* * * *
以下ネタバレ。
登場人物は、ほんとに理解できない人間ばっかりで、
はっきり言って、読んでいる間ずーっとむかっ腹が立ちっぱなし。
キヨコの自己中っぷりはすごい。
GMが記憶喪失を装っていたというのも、ばかばかしい。
ワタナベ、気持ち悪い。というか、ホンコン含めた男衆はみんな気味が悪い。
唯一、常識の象徴であったキヨコの夫・隆が冒頭で死んでしまったことで、
さらに男たちの最低っぷりが際立っていく。
それらすべては、「無人島」という極限状態という
エクスキューズを得ているから、なんとか読んでいけるのかも。
この作品は、そういう舞台装置を使って、
書いてみたかったという実験的なものにも思えた。
*
それにしても、無人島にもし漂着したら。
ああいった事態は、ほんとうに起こりうるものなのか。
そのへん、きっと取材しているんだろうと思うので、
その裏話も気になった。